子どもたちに必要な「学び」の概念が変わろうとしています。
自分で考える力、それを表現し、伝え、判断する力、そして人とつながる姿勢。
未来を幸せに生き抜くための学びの手段として、今、取り入れられているのが「探究学習」です。
「探究的な学び」とはそもそも何か。
最新の教育事情に詳しい専門家に、今、求められている学びの形について語ってもらいました。
<対談者プロフィール>
藤原さと 氏
日本政策金融公庫を経て、米国留学。帰国後、ソニーにて海外企業とのプロジェクトに携わる。2014年に「こたえのない学校」を設立し、経産省「未来の教室」事業で世界屈指のプロジェクト型学習を行う米ハイ・テック・ハイの教育プログラムを日本に導入。
山本秀樹 氏
化学素材メーカーなどを経て AMS合同会社を設立。企業の新規事業開発支援と並行し、 Minerva School at KGI (現 Minerva Univertsity )を日本に紹介。現在は中等~社会人教育まで、幅広い組織に実践的な知恵を育むカリキュラムの導入を支援している。
空田真之( common 代表)
キーエンスやリクルートを経て、教育業界へ。高校・大学にて約500名の学びに関わり、探究学習の動画教材も制作。その中で、原体験を得るための学びの環境デザインが大切と考え、 common を設立。また、ヤングダボス One Young World の日本理事も務め、若者リーダー育成にも力を入れる。
<司会>
玉居子泰子
編集者・ライター。育児・教育をテーマに『AERA』「東洋経済オンライン」などに寄稿。著書に『子どもから話したくなる「かぞくかいぎ」の秘密』(白夜書房)他。対話を軸に、時代に応じて求められる教育のあり方を模索する。
ーー 本日は、 common 流山おおたかの森S・C校 開校記念イベントということで、国内外の教育に詳しい皆様にお集まりいただきました。小・中学生の学習指導要領にも「主体的・対話的で深い学び」が基本的な学び方の一つとして挙げられ、高等学校の教育課程には「総合的な探究の時間」が設けられました。日本の学校教育も、今、改革途中かと思います。今後、どんな変化が求められると思われますか?
藤原: これまで日本の教育は、ある一つの物差しに沿って、順応し適応できる子どもたちを育てることが軸になっていたのかと思います。おそらく私を含め多くの親が、これまでの教育システムの中で学んできて、より良い成績、良い点数を取ることを目指してきました。しかし、いざ社会人になってみて、仕事の喜びがどこにあるかわからない、という体験をした人も、実は少なくないのではないでしょうか。偏差値だけで価値を決める危うさを孕む教育のまま、過去に与えられた物差しに沿って粛々と生きることが、子どもたちにとって幸せかどうか? そう考えると、教育自体を変えていく必要があるのではないかと思うのです。
山本: 今おっしゃったことって、教育の根底にあるものですよね。まずどういう自分でありたいか、どう生きたいかのイメージを持って、そのために知識や技術を習得していくのが、学びであって。そもそも発想のベクトルを、今と真逆に変える必要がある。もちろん、これまで大事にされてきた「英・国・数・理・社」のような、基礎的な知識が不要ということではなく、自分の目的(目標)を叶えるための手段として利用すればいい。
空田: 私もこれまで多くの高校生・大学生に関わってきましたが、優秀な学生のベースに何があるんだろうと深く聞いていくと、必ず、子ども時代に抱いた「憧れ」の原体験があるんですよね。幼い時から、さまざまな感動体験を通して、こうなりたい、こういうことを学びたいという興味関心の芽を育たせられるかどうか。そこから身近な社会の問題を自分ごととして捉えて、こういうことを学びたいと思えるかどうか。そんな思考を育むサポートがしたいと考えています。
山本: 私は海外大学の学生募集に関わっていたことから、日本の入試方法(とくに総合型選抜など)についても学校側から相談を受けることがあるのですが、やはりすでに日本でも、探究的に自らの課題を掘り下げ、考える力を持つ人材が求められているのは確かだと感じています。自分は何に興味関心があり、だからこれを学び研究したいという意志がはっきりしている人、そしてそれを伝える力がある優秀な人材が、今後はますます求められていると感じていますね。
藤原: 「優秀」ということの意味も、これまでのように「テストで良い点数を取る」ということではなくなっています。大学入学以降に問われる「優秀さ」というのは、つまり自分の内側にある「好奇心」をどれだけ強く持続できるかということ。たとえば大学機関で行う研究は大規模で長期的なものですから、一つの問題に対して、どれだけ熱心に、興味・関心を持ち続けられるかが重要。深い好奇心を持っている人がやはり、強いのだと思います。
空田: 小学生くらいから好奇心を育んでいくことが大切ですよね。「 common 流山おおたかの森S・C校」には10週間のオリジナル探究学習の時間がありますが、まずは子どもたちに身近な大人やアイテムに触れてもらって「憧れ」を持ってもらい、そこからチームで疑問や問いを見つけて、ミッション化します。対話や中間発表、それに対するフィードバックを行いながら、何度も試行錯誤を繰り返しプロジェクトを進めていきます。最後は彼らの学びや問いのプロセスを地域の人や保護者の皆様に発表し、振り返りを行ってプロジェクトが完了。学校とは違って、学びに点数がつかない場所で、子どもたちから自由に発信されるものをベースに、安心して試行錯誤を繰り返す学びを持続的におこなっていきたいと思っています。